免税事業者のインボイスへの対応


インボイス制度への免税事業者の対応を解説します。

免税事業者のままでよいか

まず検討すべきことは免税事業者のままでよいのかということです。

これまでは取引の相手が消費税の課税事業者か免税事業者かは関係ありませんでした。
*課税事業者・・・消費税を納税している事業者
 免税事業者・・・消費税の納税を免除されている事業者

取引内容によって消費税がかかるもの、かからないものが決まっていました。

ところが、インボイス制度が始まると取引相手が課税事業か免税事業者で消費税の計算が変わってしまいます。

どういうことか、具体的な数字で考えてみます。

課税事業者A社は免税事業者のB社から商品を仕入れています。
110万円(税込)の商品を仕入れ、どこかに220万円(税込)で売ったとします。

これまでは200万円(税抜)ー100万円(税抜)=100万円の利益
消費税は預かった消費税から支払った消費税を控除して納税します。
したがって消費税の納税額は20万円ー10万円=10万円となります。

インボイス制度が始まると免税事業者からの仕入れについては消費税を払ったという処理ができなくなります。
仕入110万円の中に消費税は含まれておらず、110万円全てが仕入額と考えます。

利益の計算は200万円(税抜)ー110万円(税抜)=90万円
消費税の納税額は20万円ー0円=20万円となります。
*経過措置あり(免税事業者からの仕入でも一定期間部分控除あり)
 2023年10月1日〜3年間は8割控除できるため支払った消費税10万円のうち8万円控除される
 2026年10月1日〜3年間は5割控除できるため支払った消費税10万円のうち5万円は控除される

このように利益は減り、消費税の納税額が上がるのでは課税事業者A社は困ってしまいます。

顧客により必要な対応は異なる

主な顧客がどのような方なのかで対応が変わります。

一般消費者が主な顧客であれば、消費税の処理は関係ないはずです。
免税事業者のまま、今まで通りのレシートや請求書で問題ないでしょう。
*税率ごとに区分した合計額、消費税率、消費税額は記載します。

悩むのは顧客が事業者の場合です。
免税事業者との取引は利益の計算、消費税の納税負担の面から敬遠される可能性があります。
そうなると困ってしまいますね。

課税事業者になるという選択肢

免税事業者のままではお客様から嫌がられ困ってしまう。
という場合は課税事業者になることを選択することができます。

「適格請求書発行事業者登録申請書」を提出すれば課税事業者になります。
インボイスの登録番号が発行され、請求書やレシートに登録番号を記載することができるようになります。

これで取引先である顧客は消費税を支払ったという処理ができます。

この届出書に関する国税庁の案内はこちらから。

2年(超)縛りにご注意

適格請求書発行事業者の登録をした場合、2年間は納税義務が免除されないという規定があります。
基準期間の売上高が1,000万円以下になったとしても免除はされません。

正確に書くと「登録日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは、基準期間の課税売上高にかかわらず、納税義務が免除されない」となります。

ここでいう「登録日から2年を経過する日」とは登録日の前日を指します。
登録日が2024年1月1日なら2年を経過する日とは2025年12月31日です。
2025年12月31日の属する課税期間の末日までは納税義務が免除されないということは2024年と2025年は課税事業者になるということです。

1/1の登録ならいいのですが、1/2の登録だと前日が1/1になります。
1/1の属する課税期間の末日までは納税義務が免除されないということは実質3年間免除されないということです。

ただし、2023年10月1日を含む課税期間中に登録をした場合は2年縛りの適用がありません。

個人の場合で考えると
・2023年中に登録 → 期限内に取消し届を出せば2024年から免税事業者に戻れる
・2024年1月1日に登録 → 2024年、2025年は最低でも課税事業者
・2024年1月2日以降に登録 → 2024年登録日〜12月31日、2025年、2026年は最低でも課税事業者

2年縛りといっても実質3年近く縛られることもあるということです。

適格請求書発行事業者への登録を考えている免税事業者は2年(超)縛りに注意が必要です。

消費税の2割を納税すればよいという特例

本来免税事業者である方が適格請求書発行事業者の登録をしたことによって課税事業者になった場合、預かった消費税の2割を納付すればよいという特例があります。
これを2割特例といいます。

免税事業者だった方への負担を軽減するための特例です。

売上等で預かった消費税の2割を納付すればよいので、売上等の消費税だけ集計すれば申告することができます。

ということは仕入や経費で支払った消費税は関係ないということです。

シンプルですよね。

仕入や経費の領収書等がインボイス制度の要件を満たしているのどうかを確認する必要はありません。

この2割特例を使うための届出は必要ありません。
消費税の申告の際に2割特例を使っていることを記載すれば適用されます。

適用される期間は2023年10月1日〜2026年9月30日までの日の属する課税期間です。
ややこしい言い回しですが、個人の場合は2026年分の確定申告まで適用されます。

2割特例に関する国税庁の案内はこちらから。

まとめ

インボイス制度の導入は免税事業者には厳しいものです。
これまで納税を免除されていた方が課税事業者になり申告義務と納税義務を負うケースが増えることでしょう。

3年程度は2割特例がありますが、その後は他の課税事業者と同じように計算し申告、納税をすることになります。

免税事業者は小規模な事業者ですから、消費税の納税は苦しいと思います。
日頃から消費税の納税を意識した資金繰りが必要になってきます。
場合によっては価格の見直しも必要かもしれません。

注記
*この記事は「課税事業者選択届出書」を提出していないことを前提に書いています。「課税事業者選択届出書」を提出した場合は取り扱いが異なります。

*この記事は2023年9月3日現在の法令・通達等に基づいて書いています。

税理士やってます。

税理士 西野伸太郎

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